今日は、睡眠障害に関する国際調査から、日本人の睡眠医療活用にどのような課題があるかをご紹介したいと思います。
日本は医療アクセスが良く、何か健康上の問題があった時には、すぐに外来受診ができる国です[1]。では、睡眠の問題が起きた時に、日本人はお医者さんに相談をしているのでしょうか?
答えはNoです。2005年に報告された国際調査[2]では、日本人は不眠がある時の受療行動で、医師への相談が少なく、アルコールに頼る割合が高いということが示されています。実際に外来でも、睡眠薬に対する恐怖感を患者さんから訴えられることは良くありますが、代わりにお酒を常用しているという人は非常に多いです(なお、調査が20年近く前で古いですが、習慣的に飲酒する人の割合は過去20年の間、増加傾向であるため[3]、傾向は変わらないもしくは悪化している可能性すらあります)。
2008年に報告されたフランス・イタリア・米国・日本の4カ国の比較調査でも、日本は不眠症を自覚する患者の受診率や処方薬の内服率が最も低いことが示されており[4]、理由として、日本人は文化的に睡眠薬に対する恐怖心が強いためと考えられています。
では、お酒と睡眠薬はどちらが安全なのでしょうか? 答えは、「最近の睡眠薬」に関して言えば、明らかに睡眠薬の方が安全です。様々な研究が、その安全性を示しています。睡眠薬と比較して、お酒は将来の不眠症発症リスクが高く[5]、依存性が高く[6]、睡眠時無呼吸リスクも高くなる[7]ことが知られています。(さらに、近年の睡眠薬には依存がない、睡眠時無呼吸リスクが増加しない薬が開発されてきています:参考記事・参考記事)
2000年頃に行われた日本の調査では、男性はおよそ2人に1人、女性はおよそ5人に1人が眠るために週1回以上アルコールを摂取していたと言われています[5]。長期的な睡眠障害リスクを考えるとお酒に頼るのではなく、睡眠外来を受診頂き、睡眠について相談頂けると良いのではないかと思います。
日本は睡眠障害に関する外来受診についてはまだまだハードルやスティグマ(=偏見)が大きい国であると考えられます。当院も少しでも皆さまに気軽に受診頂けるよう、これからも診療を続けて参ります。
Reference
[1] ニッセイ基礎研究所 2016年 医療の国際数量比較-日本の医療は世界一か? https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=52651?site=nli
[2] Soldatos, C. R., Allaert, F. A., Ohta, T., & Dikeos, D. G. (2005). How do individuals sleep around the world? Results from a single-day survey in ten countries. Sleep medicine, 6(1), 5–13. https://doi.org/10.1016/j.sleep.2004.10.006Leger, D., & Poursain, B. (2005).
[3] 厚生労働省 2022年 e-ヘルスネット わが国の飲酒パターンとアルコール関連問題の推移(2025年3月22日確認) https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-06-001.html
[4] An international survey of insomnia: under-recognition and under-treatment of a polysymptomatic condition. Current medical research and opinion, 21(11), 1785–1792. https://doi.org/10.1185/030079905X65637
[5] Kaneita, Y., Uchiyama, M., Takemura, S., Yokoyama, E., Miyake, T., Harano, S., Asai, T., Tsutsui, T., Kaneko, A., Nakamura, H., & Ohida, T. (2007). Use of alcohol and hypnotic medication as aids to sleep among the Japanese general population. Sleep medicine, 8(7-8), 723–732. https://doi.org/10.1016/j.sleep.2006.10.009
[6] Nutt, D., King, L. A., Saulsbury, W., & Blakemore, C. (2007). Development of a rational scale to assess the harm of drugs of potential misuse. Lancet (London, England), 369(9566), 1047–1053. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(07)60464-4
[7] Mitra, A. K., Bhuiyan, A. R., & Jones, E. A. (2021). Association and Risk Factors for Obstructive Sleep Apnea and Cardiovascular Diseases: A Systematic Review. Diseases (Basel, Switzerland), 9(4), 88. https://doi.org/10.3390/diseases9040088