それほど眠くなくても集中力は低下?──6時間睡眠の落とし穴

こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。

「最近十分に寝ていないけれど、そんなに眠くないから大丈夫」──そう思って過ごしていませんか。

「少し眠いけれど、このくらいなら大丈夫」と思っているうちに、注意力が実は落ちているかもしれません。少しの寝不足が、日ごとの集中力を静かに奪っていくことが実験で示されています。

このコラムでは、その関係を調べた研究をご紹介します。

睡眠時間を制限すると、集中力はどう変わるか

最初にご紹介する研究[1]では、慢性的な睡眠制限が注意力に与える影響が調べられました。

健康な成人48人(21〜38歳)が完全に管理された実験室環境で14日間生活しました。被験者は、1晩あたりの就床時間が8時間・6時間・4時間となるように3つのグループに分けられ、それぞれの条件で実験を行いました。 比較のため、3晩連続でまったく眠らない「完全徹夜群」も設けられました。


被験者は毎日同じ時刻に、「PVT」という検査を10分間行いました。

この検査では、画面にランダムな間隔で現れる光にできるだけ速く反応するよう指示されます。光が現れるたびに、被験者が反応するまでの時間を記録し、0.5秒を超えた反応を「lapse(注意の抜け落ち)」としてカウントし、その結果をもとに注意力の変化が評価されました。

結果として、8時間睡眠群では14日間を通じて作業成績(反応の遅れやlapseの回数)がほぼ安定していましたが、6時間および4時間睡眠群では、日を追うごとに反応が遅くなり、lapseの回数も増えていきました。特に、4時間睡眠群では低下が顕著で、最終的には3日間徹夜した群と同程度の水準に達していました。

この結果から、少しの寝不足でも、それが続くと徹夜に近い影響が現れることがわかります。

その一方で、本人が感じる眠気には別の特徴が見られました。

「眠い」と強く感じなくても、集中力は下がる

興味深いのは、被験者の自覚と実際の作業成績が一致しなかった点です。

主観的な眠気は最初の数日で強まったものの、その後はほぼ横ばいでした。

それに対して、個人差はあるものの、作業成績は実験初日から少しずつ落ち続けていていました。「そこまで強い眠気ではない」「まだ大丈夫」と思っていても、集中力は徐々に下がっていたのです。

「寝だめ」で取り戻すのは難しい

続いてご紹介する研究[2]では、睡眠不足のあとに十分眠ることで、低下した注意力や作業成績がどの程度回復するのかが調べられました。

健康な成人男性66人を対象に、就床時間を9時間・7時間・5時間・3時間のいずれかに設定し、それぞれ決められた睡眠時間で7日間過ごしてもらいました。その後、全員が8時間睡眠を3夜連続でとり、注意力や反応速度の変化がどのように変化するかを調べました。測定には、この研究でも10分間のPVTが行われ、回復過程も観察されました。

その結果、9時間群および7時間群ではパフォーマンスが安定しており、十分に睡眠がとれていたことがわかりました。

一方、5時間群ではパフォーマンスの低下が続き、回復期間に入っても大きな改善は見られませんでした。3時間群では回復初期にわずかな改善が見られたものの、結局は5時間群と同様に、3夜続けて十分に眠っても、十分に眠れていた群(9時間または7時間群)の水準まで回復しませんでした。

この研究では、睡眠時間が短い日が続くほど注意力や反応速度の低下が進み、短期間の「寝だめ」では、注意力を元の状態まで取り戻すことは難しいことが示されています。

睡眠不足が続く脳では何が起きているのか

こうした注意力の低下が起こる背景として、脳の働きはどのように変化しているのでしょうか。
この点を詳しく調べた研究[3]では、睡眠不足のときにどのような脳活動の変化が起きるのかが解析されました。

睡眠不足の状態では、集中して考えたり作業を続けたりするためにはたらく前頭前野・頭頂葉の活動が低下し、周囲に注意が向きにくく反応が遅れやすくなることが報告されています。

一方で、行動の意欲や感情のはたらきに関わる線条体・島皮質の活動は、大きくは低下せず、比較的保たれていました。

このようなアンバランスにより、脳は「集中力が下がっている」状態なのに「やる気はある」と誤って判断しやすくなり、自分の注意力の低下に気付きにくくなってしまうと考えられています。

まとめ

睡眠時間が短い状態が続くと、眠気はさほど強くなくても、少しずつ集中力が落ち、反応が遅れたり、うっかりミスが増えたりしやすくなります。

睡眠不足のとき、脳の中では「やる気のスイッチ」は入っているのに、「集中のエンジン」がうまく回っていないような状態になります。そのため、自分では「大丈夫」と思っていても、「ぼんやりしてミスが増える」など気付かないうちにパフォーマンスが落ちていることがあります。

「日中の集中力の低下や、仕事中のうっかりミスが増えたと感じる場合は、睡眠不足が影響している可能性もあります。うまく寝付けずに充分な時間眠れない、あるいは、眠っているのに昼間眠いなど、睡眠に不安がある方は、当クリニックにぜひご相談ください。


参考文献

1. Van Dongen HPA, et al. The cumulative cost of additional wakefulness: dose–response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation. Sleep. 2003;26(2):117–126. PMID: 12683469.

2. Belenky G, et al. Patterns of performance degradation and restoration during sleep restriction and subsequent recovery: a sleep dose–response study. J Sleep Res. 2003;12(1):1–12. PMID: 12603781.

3. Lim J, Dinges DF. Sleep deprivation and vigilant attention. Ann N Y Acad Sci. 2008;1129:305–322. doi:10.1196/annals.1417.002.