外来や「睡眠日誌をつけてください」と説明すると、「記録するだけで何が分かるのですか?」と疑問に思われる方も少なくありません。しかし、睡眠日誌は単なるメモではありません。寝た時間・起きた時間・眠気・生活リズムを記録することで、睡眠の問題を整理し、診断や治療方針を考えるうえで役立つ重要な「羅針盤」になります。
実は、睡眠日誌が活躍するのは不眠症だけではありません。
「こんな悩みにも使えるの?」という意外な活用シーンも含めて、睡眠日誌の有用性をエビデンスとともにご紹介します。

睡眠日誌は、就寝時刻、寝つくまでの時間、中途覚醒、起床時刻、日中の眠気や活動などを記録するものです。
ポリソムノグラフィー検査、いわゆるPSG検査が「ある一晩の睡眠を詳しく調べる検査」であるのに対し、睡眠日誌は日常生活の中での睡眠パターンを数日から数週間、時として1年以上にわたって確認できます。
特に、「実際にはある程度眠れているのに、体感としてはほとんど眠れていない」と感じる場合には、睡眠日誌が役立ちます。自分の感覚と実際の睡眠時間とのズレ、いわゆる睡眠状態誤認を可視化することで、治療の第一歩につながることがあります [1]。
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※以前のコラムでは、具体的な記入例や、無料で使える当院オリジナルのテンプレートをご紹介しています。
不眠症の認知行動療法、いわゆるCBT-Iでは、睡眠日誌が治療方針を決めるための重要なデータになります。
たとえば、睡眠日誌から「睡眠効率」を計算し、その結果に応じてベッドにいる時間を調整する方法があります。
これは「睡眠制限療法」と呼ばれ、不眠症に対する有効で医学的なアプローチのひとつです [2]。
また、自分の睡眠時間を正確に反映させるのは簡単ではなく、「ズレ」は付き物です。
ただし、この「ズレ」は決して悪いものではありません。
睡眠日誌や検査データと自分の実感を照らし合わせることで、
「思っていたより眠れている日もある」
「眠れない日には一定のパターンがある」
「週末にリズムが大きく崩れている」
といった気づきにつながることがあります。
このように、睡眠日誌は単に睡眠時間を記録するだけでなく、自分の睡眠を見直すための材料にもなります。
睡眠日誌と聞くと不眠症の人がつけるもの…と思う方も多いかもしれませんが、不眠症のほかにも、睡眠日誌はさまざまな場面で活躍します。
• 睡眠リズム障害や不登校
午前中の体調不良が「怠け」ではなく、生体リズムが夜型にズレてしまう「睡眠位相の遅延」によるものだと可視化できます。「ただの寝不足」なのか「病的な眠気」なのかを区別する上で、最低2週間の日誌記録は診断の必須条件となります [3]。
• うつ病や双極性障害
気分の波と睡眠時間は密接にリンクします。日誌でリズムの乱れをいち早く察知することは、再発防止といった観点からも重要になります。
•過眠症、ナルコレプシーなど
日中の強い眠気がある場合、「単なる寝不足なのか」「睡眠リズムの乱れによる眠気なのか」「ナルコレプシーや特発性過眠症などの過眠症が背景にあるのか」を区別することが重要です。睡眠日誌をつけることで、検査前に十分な睡眠時間が確保できていたか、睡眠リズムが大きく乱れていなかったかを確認できます。これは、検査結果を正しく解釈し、眠気の原因を整理するうえで重要な情報になります。
※こちらの記事では、睡眠日誌から推測できる「睡眠覚醒後退障害」や「非24時間睡眠・覚醒リズム障害」の具体的な波形パターン(図表)についても詳しく解説しています。
睡眠は、毎日まったく同じではありません。
仕事、学校、ストレス、休日の過ごし方、体調などによって、睡眠時間や起床時刻は変動します。
だからこそ、1日だけの記録ではなく、数日から数週間にわたって続けることが大切です。
ある研究では、睡眠時間の日ごとのばらつき(Night-to-night variability)が大きいほど、日中のストレスや機能低下に関連するという報告もあり[4]、自分のリズムを把握しておくことはとても有用です。

睡眠日誌は、以下のような多岐にわたる課題を解決する基本的かつ強力なツールです。
特に、以下のような場面で役立ちます。
・不眠症: 睡眠状態の正体を見極め、行動療法につなげる
・リズム障害: 生体時計のズレを可視化する
・過眠症: 診断の精度を高め、適切な治療を選択する
・メンタル・発達特性: 気分や行動の波を把握しコントロールする
睡眠日誌は、少し手間のかかる作業に感じられるかもしれません。
しかし、その記録は診療の質を高め、より適切な睡眠医療につなげるための重要な情報になります。
実際の診療でも、「忙しくて書けなかった」「つい忘れてしまった」という声は少なくありません。
ただし、睡眠日誌は“完璧に書くこと”よりも、“続けて記録すること”に意味があります。
多少抜けている日があっても問題ありません。
まずは、できる範囲で記録を続けてみてください。
その積み重ねが、ご自身の睡眠を理解し、よりよい治療につながる大切な一歩になります。
[1] Carney CE, Buysse DJ, Ancoli-Israel S, Edinger JD, Krystal AD, Lichstein KL, Morin CM. The consensus sleep diary: standardizing prospective sleep self-monitoring. Sleep. 2012 Feb 1;35(2):287-302. doi: 10.5665/sleep.1642. PMID: 22294820; PMCID: PMC3250369.
[2]Trauer JM, Qian MY, Doyle JS, Rajaratnam SM, Cunnington D. Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Insomnia: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Intern Med. 2015 Aug 4;163(3):191-204. doi: 10.7326/M14-2841. PMID: 26054060.
[3]Sateia MJ. International classification of sleep disorders-third edition: highlights and modifications. Chest. 2014 Nov;146(5):1387-1394. doi: 10.1378/chest.14-0970. PMID: 25367475.
[4] Bei B, Wiley JF, Trinder J, Manber R. Beyond the mean: A systematic review on the correlates of daily intraindividual variability of sleep/wake patterns. Sleep Med Rev. 2016 Aug;28:108-24. doi: 10.1016/j.smrv.2015.06.003. Epub 2015 Jul 2. PMID: 26588182.