「寝不足だとミスが増える」と感じたことはありませんか。
睡眠不足は、集中力や気分に影響することは広く知られています。しかし近年の研究では、それだけではなく、リスクのある選択をしやすくなる可能性も示唆されています。
2024年に発表された実験研究では、36時間の断眠(完全な睡眠不足)を行った場合、参加者は徐々にリスクの高い選択を増やす傾向を示しました[1]。特に注目すべき点は、「失敗から学ぶ力」が早い段階から低下していたことです。つまり、単に判断が大胆になるのではなく、損失を経験しても行動を修正しにくくなる可能性があるのです。本記事では、この研究内容をもとに、睡眠不足が判断力にどのような変化をもたらすのかを解説します。
この研究では、健康な男子大学生37名を対象に、36時間連続で起きている状態を作り、以下を複数回測定しました[1]。
・眠気や疲労感
・感情の変化
・注意力(PVT)
・リスク下での意思決定(GDT)
GDTでは、サイコロを用いた課題で「高リスク・高損失」か「低リスク・低損失」かを選択します。選択には明確な勝率が設定されており、合理的に考えれば安全な選択のほうが有利になる設計です。

図1は、「損失を経験した後に安全な選択へ切り替えた回数」の推移を示しています。
結果として、
ことが報告されています[1]。
一方で、勝った後に安全選択を維持する能力(ポジティブフィードバック)は維持されていました。つまり、「うまくいった経験」は活かせるが「失敗した経験」を修正に使いにくくなるという変化が起きていたのです。また、リスク選択全体を示すGDTネットスコアも、20時間以降で有意に低下していました[1]。これは時間の経過とともにリスク志向が高まる可能性を示唆します。
この研究で特に重要なのは、大きな判断力低下が起きる前段階として、すでに8時間時点で変化が始まっていたことです。一般的に「徹夜」は極端な例と考えられますが、
など、多少の睡眠不足は日常的に起こり得ます。
研究では、眠気や疲労は15時間以降で明確に増加していましたが[1]、ネガティブフィードバックの活用低下はそれより早く始まっていました。自覚的には「まだ大丈夫」と感じていても、無意識レベルで“損失を軽視する傾向”が始まっている可能性があるのです。ただし、本研究は実験室環境での課題結果であり、日常生活にそのまま当てはめることはできず、あくまで「その可能性を示した研究」と理解する必要があります。
では、なぜこのような変化が起きるのでしょうか。
研究では、注意力が媒介している可能性が示されています[1]。
注意力は、長時間にわたって警戒状態を維持する能力です。断眠が進むにつれて、PVTで測定される反応時間は有意に延長しました。これは注意力の低下を示します。

図2は、睡眠不足→ 注意力低下→ リスク判断の変化という関係を統計モデルで示したものです。
解析の結果、注意力は「部分媒介因子」として働いていました[1]。つまり、睡眠不足は直接的にも判断力に影響しますが、その一部は注意力低下を介して生じている可能性があるということです。
注意力が低下すると、
といった変化が起こる可能性があります。これが結果として「無謀な賭け」に見える行動につながるのかもしれません。
本研究は、睡眠不足が
に影響を与える可能性を示しました[1]。
特に重要なのは、8時間という比較的短い断眠でも変化が観察された点です。
「寝不足なのに、なぜか強気になってしまう」という背景には、損失を適切に活用できない状態が関与している可能性があります。日常生活や重要な判断を控えている場面では、十分な睡眠を確保することが、冷静な意思決定を保つ一助になるかもしれません。
参考文献
[1]Xu W, Wang L, Yang L, Zhu Y, Chen P. Sleep deprivation alters utilization of negative feedback in risky decision-making. Front Psychiatry. 2024 Nov 19;15:1307408. doi: 10.3389/fpsyt.2024.1307408. PMID: 39628495; PMCID: PMC11611806.