睡眠不足になると、「集中できない」「反応が遅くなる」「頭がぼんやりする」と感じる方は多いでしょう。しかし、睡眠の影響は、注意力や眠気だけに表れるとは限りません。
今回紹介する研究では、軍事訓練を受けた若者を午前3時に突然起こし、刻々と状況が変化する緊急事態を想定した課題に取り組んでもらいました。その結果、起床直後の参加者では、基本的な知識や訓練された手順よりも、重要な情報を選び、新しい状況に合わせて判断を切り替える場面で成績が低くなっていました[1]。
今回は、この研究からわかる、睡眠と状況変化への対応力について整理していきます。
睡眠不足の影響としてイメージしやすいのは、眠気や集中力の低下です。文章を読んでも内容が頭に入らない、単純なミスが増える、反応が遅れるといった変化は、日常生活でも比較的気づきやすいでしょう。
一方で、睡眠が足りないときには、より複雑な思考にも影響が及ぶかもしれません。
たとえばこれは、複数の情報から重要なものだけを選ぶ、新しい情報に合わせて計画を変更する、行動によって起こり得る結果を予測するといった思考です。このような、目的に合わせて考えや行動を調整する高次の認知機能は、一般に「実行機能」と呼ばれます。
実行機能が求められるのは、仕事中に突然のトラブルが発生したとき、予定を組み直す場面や、複数の依頼の優先順位を決める場面などです。こうした状況では、変化した状況を正しく把握して、これまでの方針を修正できるかが重要になります。
今回の研究が注目したのも、このような状況変化への柔軟な対応力でした。
研究には、20~22歳の健康な男性20人が参加しました。参加者は大学の将校訓練部隊に所属する予備役で、約18か月にわたって軍事訓練を受けていました。基本的な士官訓練を修了しており、戦術的な計画を立てるための知識と技能を身につけている人たちです。
参加者は、10人ずつの2つのグループに無作為に分けられました。
実験群は午前0時に就寝し、午前3時に突然起こされました。実際に眠っていた時間は3時間未満です。起こされた参加者は5分以内に近くの部屋へ集合し、約1分間の説明を受けた後、直ちに課題を開始しました。
一方、対照群は午前7時30分まで通常どおり眠り、その約1時間後に、実験群と同じ課題に取り組みました。
参加者には、これから課題が行われることを事前に知らせていませんでした。実験群では、参加者は午前3時に突然起こされ、5分以内に集合したうえで、ただちに15分間の課題を行いました。課題は起床後約20分以内にほぼ終了しており、寝起きの影響が残りやすい時間帯だったと考えられます[1]。
課題の内容は、敵から突然攻撃を受けたという想定で、味方の被害をできるだけ少なくしながら対応計画を立てるものでした。実際に兵士を動かすのではなく、地図や資料を読み、計画を文章で作成する模擬的な課題です。
参加者には、現在の状況を説明する文章、周辺の地図、利用できる装備や支援の一覧、計画を記入する用紙などが渡されました。資料に含まれていたのは、必要な情報だけではなく、課題の解決に関係のない情報や、判断を誤らせる可能性のある情報も意図的に混ぜられていました。つまり、参加者は短時間で大量の情報を読み、何が重要で何が不要なのかを選別しなければならない状況に置かれました。課題の制限時間は15分です。
さらに、課題が半分ほど進んだ時点で、参加者には新しい情報が突然伝えられました。それまで有力だった進行ルートが、豪雨による浸水や橋の消失によって使いにくくなり、新たに地雷原の存在も判明したという設定です。また、風向きも変化し、煙や砲撃の使い方を見直す必要がありました。
この追加情報によって、最初に立てた計画をそのまま続けるのは危険になります。参加者には、新しい状況を理解し、それまでの計画を捨てたり修正したりする柔軟な対応が求められました。
課題の回答は匿名化され、どちらのグループの回答か分からない状態で、3人の教官が評価しました。評価項目は、次の5つです。
各項目は1~5点で採点され、点数が高いほど良好な成績を示します。
課題の総合得点は、午前3時に起こされた実験群で平均2.28点、通常の睡眠後に課題を行った対照群で平均3.06点でした。統計学的にも、両群の間には有意な差が認められました[1]。
研究者は、5項目のうち3項目以上で3点未満だった参加者を、課題に「不合格」だったと判定しています。
この基準では、実験群は10人中8人が不合格でした。一方、対照群で不合格だったのは10人中3人でした。
参加者はいずれも訓練を受けており、自分たちの能力が評価されることを理解していました。したがって、単にやる気がなかったために成績が下がったとは考えにくい状況です。
ここで重要なのは、すべての評価項目で実験群の成績が低かったわけではないことです。
実験群で有意に成績が低かったのは、次の3項目でした。
一方、「戦術的状況の把握」と「計画・準備」では、両群に明確な差が認められませんでした。戦術的状況の把握や計画・準備には、それまでの訓練で身につけた基本的な知識や手順が関係します。こうした比較的慣れた能力は、起床直後でもある程度保たれていました。それに対して、状況が途中で変化したときに必要になる、情報の見直しや計画の切り替えでは差がみられました。つまり、この研究では、「何も考えられなくなった」というよりも、身につけた知識や手順は使えていても、状況の変化に合わせて考えを更新することが難しくなっていたと考えられます。

研究者は、実験群の成績に影響した可能性のある要因として、主に3つを挙げています。
1つ目は、睡眠時間が3時間未満だったことです。
2つ目は、課題が午前3時という、体内時計の影響によって覚醒度が低くなりやすい時間帯に行われたことです。
3つ目は、眠りから目覚めた直後にみられる「睡眠慣性」です。
睡眠慣性とは、目を覚ました後も眠気やぼんやりした感覚が残り、認知機能がすぐには通常の状態に戻らない現象です。今回の実験群は、起こされてから約20分以内に課題の大部分を終えていました。そのため、課題を行っていた時間は、睡眠慣性の影響が残っていた可能性がある時間帯と重なっています。
今回の研究では、軍事訓練を受けた若い男性を午前3時に突然起こし、状況が途中で変化する緊急対応課題に取り組んでもらいました。その結果、通常の睡眠後に課題を行った群と比べて、午前3時に起こされた群では総合得点が低く、10人中8人が不合格と判定されました[1]。
特に成績が低かったのは、必要な情報を選び出す能力、利用できる人員や装備を活用する能力、変化した状況に応じて安全な場所を選び直す能力でした。一方、訓練によって身につけた基本的な戦術の理解や、計画・準備に関する能力には、明確な差がみられませんでした。
この結果から、睡眠が不十分な状態で早朝に突然起こされた直後には、単純な集中力だけでなく、新しい情報に合わせて考えを切り替える力にも影響が及ぶと考えられます。「目が覚めているから、いつもどおり判断できる」とは限りません。特に、計画の変更や複数の情報の整理を必要とする場面では、睡眠不足や覚醒度、睡眠慣性に注意してみるといいでしょう。
参考文献
[1] Horne J, Moseley R. Sudden early-morning awakening impairs immediate tactical planning in a changing ‘emergency’ scenario. J Sleep Res. 2011;20(2):275-278. doi:10.1111/j.1365-2869.2010.00904.x. PMID: 21518064.