「マグネシウムを摂ると眠りやすくなる」「睡眠の質を高めるにはマグネシウムがよい」と聞いたことがある方もいるかもしれません。
マグネシウムは、神経や筋肉などの働きを支える重要なミネラルです。近年は睡眠との関係も注目されており、食事からの摂取量を調べた研究や、サプリメントを使った臨床試験が報告されています。
約4,000人を追跡した研究では、マグネシウムの摂取量が多い人ほど、睡眠時間が7時間未満になる割合が低い傾向が示されました[1]。一方、マグネシウムを含むサプリメントを4週間摂取した研究では、不眠症状の自覚的な改善がみられたものの、その効果は小さいものでした[2]。
本記事では、食事やサプリメントからのマグネシウム摂取量を調べた観察研究と、マグネシウムサプリメントを使ったランダム化比較試験をもとに、現在わかっていることを解説します。
マグネシウムは、体内のさまざまな酵素反応に関わるミネラルです。神経から筋肉へ情報を伝える働きや、神経細胞の興奮を調整する仕組みにも関与しています。
マグネシウム摂取量と睡眠との長期的な関係を調べたのが、米国のCARDIA研究です[1]。
この研究では、18~30歳で登録された米国の成人3,964人を対象に、長期間にわたって食事内容や生活習慣、睡眠時間などを追跡しました。マグネシウムの摂取量は、登録時、7年目、20年目に行われた食事調査をもとに評価されています。ここでいうマグネシウム摂取量には、食品から摂った分だけでなく、サプリメントから摂取した分も含まれています。睡眠時間と睡眠の質については、15年目と20年目に本人への質問によって評価されました。睡眠時間は、1日7時間未満、7~9時間、9時間超の3つに分類されています。
研究の結果、マグネシウムの総摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループと比べて、睡眠時間が7時間未満となる可能性が低いことが示されました。年齢、性別、人種、教育歴、喫煙、飲酒、運動量、体格、総摂取エネルギー、カフェインやビタミンDなどの摂取量を統計的に調整した解析では、最も摂取量が多いグループの短時間睡眠のオッズ比は0.64でした[1]。オッズ比0.64とは、マグネシウム摂取量が最も少ないグループを1とした場合に、最も多いグループでは7時間未満の睡眠に該当するオッズが約36%低かったことを意味します。

※年齢、性別、人種、教育歴、喫煙、飲酒、身体活動、BMI、摂取エネルギー、カフェイン、亜鉛、ビタミンD、炭水化物などを調整した解析。
一方、主観的な睡眠の質については、マグネシウム摂取量が多いグループほど良い傾向がみられたものの、統計学的には境界的な結果でした。最も摂取量が多いグループのオッズ比は1.23でしたが、傾向性のp値は0.051でした[1]。一般的に用いられるp<0.05という基準をわずかに満たしていないため、「マグネシウム摂取量が多いほど睡眠の質が良かった」と明確に結論づけることはできません。
また、この研究は観察研究です。研究者が参加者にマグネシウムを摂らせたわけではなく、普段の摂取量と睡眠との関係を調べています。実際に、マグネシウム摂取量が多い人は、教育歴や身体活動量が高く、喫煙者が少ないなど、生活習慣にも違いがありました。統計解析ではこうした要因を調整していますが、測定されていない食生活や健康状態の影響が残っている可能性があります。そのため、この研究からわかるのは「マグネシウム摂取量が多い人では短時間睡眠が少かった」という関連であり、マグネシウムが睡眠時間を延ばしたと証明されたわけではない点に注意が必要です。
観察研究だけでは因果関係を判断しにくいため、サプリメントを実際に摂取してもらうランダム化比較試験が重要になります。2025年に報告された研究では、睡眠の質が悪いと感じている18~65歳の成人155人を対象に、マグネシウム・ビスグリシネートの効果が調べられました[2]。
参加者は、次の2つのグループに無作為に分けられました。
参加者も研究者も、誰がどちらのカプセルを摂っているか分からない二重盲検法が採用されています。
マグネシウム群は、就寝30~60分前にカプセルを摂取しました。1日量には、元素マグネシウム250mgとグリシン約1.52gが含まれており、摂取期間は4週間でした。
主な評価項目には、不眠症状の程度を数値化する「不眠重症度指数(Insomnia Severity Index:ISI)」が使われました。ISIは、寝つきにくさ、夜中や早朝の目覚め、睡眠への満足度、日中生活への影響などを7つの質問で評価する尺度です。点数が低いほど、不眠症状が軽いことを示します。
4週間後、ISIの平均変化量は次のとおりでした。
年齢、性別、BMI、職業、開始時のISI得点などを調整した解析では、両群の改善度の差は1.6点で、統計学的な有意差が認められました[2]。

この研究における効果量は、Cohen’s d=0.2でした。これは、マグネシウム群とプラセボ群との差が小さかったことを示します。マグネシウム群では平均3.9点改善しましたが、プラセボ群でも平均2.3点改善しており、両群ともに症状が軽くなっていました。また、別の不眠評価尺度であるRIS、1項目で評価した睡眠の質、日中の眠気、疲労、ストレス、不安・抑うつ症状などでは、マグネシウム群とプラセボ群の間に明確な差は確認されませんでした[2]。
また、睡眠の質を0~10点で評価した指標では、マグネシウム群の方が改善する傾向はみられましたが、p値は0.069で、統計学的な有意差には達していません。
この研究からは、マグネシウム・ビスグリシネートの4週間摂取によって、自覚的な不眠症状がわずかに軽くなる可能性が示されましたが、睡眠に関するすべての評価が改善したわけではなく、全体として効果は限定的だったと考えるのが妥当です。
サプリメントの効果は、すべての人で同じとは限りません。もともとのマグネシウム摂取量が少ない人ほど、補充による影響が大きくなる可能性も考えられます。マグネシウム・ビスグリシネートの試験では、研究開始前に、マグネシウムを多く含む食品やミネラルウォーターを普段どの程度摂っているかを参加者に質問しました[2]。
その探索的な解析では、マグネシウム群において、普段の摂取量が少ないと回答した人ほど、ISI得点の低下が大きい傾向が示されました。

プラセボ群では、摂取頻度とISI変化量に明確な関連はみられません。一方、マグネシウム群では、普段の摂取頻度が少ない人ほど、ISIの低下幅が大きい傾向が示されています。
一見すると、「マグネシウムが不足している人ほどサプリメントが効きやすい」と解釈できそうです。しかし、この結果をそのまま一般化することはできません。この研究で使われた食事評価は、マグネシウムを多く含む食品の摂取頻度を1つの質問で尋ねる簡易的なものでした。一般的な食事調査法と比較して正確性が検証された尺度ではありません。
したがって、「不足している人ほど効果が高い」という考え方は興味深いものの、現段階では今後の研究で検証すべき仮説段階です。サプリメントの効果を予測するためには、より正確な食事調査や、尿中マグネシウムなどの客観的な指標を用いた研究が必要でしょう。
今回の2本の研究から、マグネシウムと睡眠の関係について、次のように整理できます。
長期的な観察研究では、食事とサプリメントを合わせたマグネシウム摂取量が多い人ほど、7時間未満の短時間睡眠が少ないという関連が示されました[1]。
一方、マグネシウム・ビスグリシネートを4週間摂取したランダム化比較試験では、不眠症状を示すISI得点がプラセボよりわずかに大きく改善しましたが、効果量は小さいものでした[2]。
マグネシウムは睡眠だけに作用する特別な成分ではなく、日々の食事から摂取する栄養素の一つです。サプリメントだけに頼るのではなく、まずは食生活全体や睡眠習慣を振り返ることが重要です。寝つきにくさ、夜中に何度も目が覚める、早朝に目覚める、日中の眠気や集中力低下が続いている場合には、栄養素の不足だけでなく、睡眠のリズム、生活習慣、心理的要因、ほかの睡眠障害などが関係している可能性もあります。
マグネシウムは睡眠を支える要素の一つである可能性はありますが、万能な睡眠改善成分ではありません。今回の研究結果は、マグネシウムと睡眠との関係を示す一つの手がかりとして、受け止めることが大切です。
参考文献
[1] Zhang Y, Chen C, Lu L, Knutson KL, Carnethon MR, Fly AD, Luo J, Haas DM, Shikany JM, Kahe K. Association of magnesium intake with sleep duration and sleep quality: findings from the CARDIA study. Sleep. 2022 Apr 11;45(4):zsab276. doi: 10.1093/sleep/zsab276. PMID: 34883514; PMCID: PMC8996025.
[2] Schuster J, Cycelskij I, Lopresti A, Hahn A. Magnesium Bisglycinate Supplementation in Healthy Adults Reporting Poor Sleep: A Randomized, Placebo-Controlled Trial. Nat Sci Sleep. 2025 Aug 30;17:2027-2040. doi: 10.2147/NSS.S524348. PMID: 40918053; PMCID: PMC12412596.