睡眠不足(寝不足)の危険性 ~日本人は睡眠時間を削りがち~

「睡眠不足」は今、世界中で問題になっています。今回は、「睡眠不足」が健康や社会に与える影響についてご説明したいと思います1

睡眠不足の日本人

以前ご紹介した睡眠ガイドでは、日本人の睡眠時間は不足していることをお伝えしました2

必要な睡眠時間は、大人は最低でも6時間以上(最も疾病リスクが低いのは7時間程度)3、子どもは年齢によりますが、小学生は9〜12時間、中高生は8〜10時間4とされています。しかし、睡眠不足である日本人は全体の23%と報告されており、これは世界的に見ても(スウェーデン12%、米国11%、フィンランド9%)高いことが報告されています5。実際に疾病リスクが最も下がるとされる、7時間程度の睡眠を取れている人は諸外国と比較しても非常に少ないことが知られています。

睡眠時間日本米国英国ドイツカナダ
7時間未満割合56%45%35%30%26%
表1. 国別「7時間未満の睡眠時間」の割合(%)

睡眠不足はなぜ起こるのか?

生活習慣や仕事・学校などの社会的要因まで含めて、睡眠不足の単一の原因を特定することは難しいとされています6。睡眠不足は、いくつもの要因が組み合わさって起こるものだからです。

以下のような事項が重なると、睡眠不足である人が増えるということが報告されています。

  • 夜勤をしている、もしくは週に40時間以上働いている
  • 出張が多い
  • 仕事の求められることが大きい
  • ストレス
  • 性別、人種
  • 他のことをするため睡眠時間を意図的に短くする
  • 寝る前にコーヒーや紅茶などを飲む

外来でも睡眠不足で来院される方は多いです。典型的な要因としては、以下のようなものが挙げられます。

  • シフトワークのある業務(医療/介護/警備等)や海外出張の多い仕事に従事しており、不規則な生活を行っている
  • 会社の社長・役員・部長や、金融・コンサルティング・IT関係など、大きな責任を負う高給の仕事に就いている
  • 勤務地が自宅から非常に遠い(目安としては1時間以上)
  • 給与が非常に安いために、労働時間が長い(家に帰るのが24時頃、朝は7時起床等)
  • 子育て中であり、家事・育児に追われ、昼/夜の睡眠が十分にとれていない
  • 子どもや学生が、勉強や部活の過密なスケジュールをこなすため睡眠時間を削っている

睡眠不足の影響

個人への影響

睡眠不足はただ「寝ていない」だけではありません。寝ていないことは、心身に大きな影響を引き起こします。また、寝不足により反応がにぶくなり、判断力が落ち、それにより普段はやらないミスを仕事でしたり、怪我や事故を起こしたりします。

経済への影響

寝不足は、経済にも影響します。

日本の毎年の睡眠不足による損失額は、880億ドル〜1380億ドル(日本円にして約12〜19兆円)と推計されています7。2024年の日本の国家予算は、112兆円とされていることから、寝不足の影響はかなり大きいことが分かります8。経済規模(国内総生産, GDP)に対する寝不足による損失額の割合は、日本は他国に対して大きいと言われています(GDPのおよそ3%を占めるとの報告があります7)。

大事故は深夜から朝方に起こりやすい?10

1979年3月28日、午前4時。米国ペンシルベニア州のスリーマイル島発電所の2号炉で、深刻な原子力事故が起こりました。この事故により、原子炉はメルトダウン寸前まで至り、発電所周辺に放射性物質が放出されてしまいました。

この事故の原因を探っていくと、人為的ミスが浮かび上がりました。
午前4時から6時の間に、作業交代中の作業員が、弁の故障による原子炉の冷却水喪失に気付けなかったこと、その後の対応が適切ではなかったことから、事故が起きてしまいまいした。最初は機械の故障から始まりましたが、それに気づいてすぐ対応出来ていれば事故はここまで深刻にならなかったかもしれません。

その他にも、チェルノブイリ原子力発電所事故の発生時間は午前1時23分、米国オハイオ州デービスべッセ原子炉事故は午前1時35分、カリフォルニア州ランチェセコ原子炉事故は午前4時14分と、深刻な事故が深夜から朝方に起こりました。このような事故には、異常に気付けなかった、間違えてボタンを押してしまった等、深夜から朝方の寝不足による人為的ミスが影響していると考えられています

寝不足を解消するために推奨されていること

これまでに、こちらの睡眠コラムでは、様々な睡眠時の注意点についてお話してきました。
例えば、以下のようなことは良い睡眠のために、重要なことです。

個人で出来ること

  • 電子メディア(スマホ、タブレット、PC)は寝る前に見ない11
  • カフェインやお酒を寝る前に取らない12 13
  • 午前中に日光に当たり、夜は避ける14
  • バランスのとれた食事を心がける15
  • 眠れないことが続くなら、睡眠外来に相談する

政府が検討すべき規制・政策

また、個人の努力だけでは寝不足が解決しない場合もあります。
政府が寝不足解消のために改善出来ることとして、以下のようなものが挙げられます。

  • 労働時間と労働スケジュールの規制を厳しくする。シフトワーク・連続勤務・残業のルール策定/遵守が必要16
  • 中高生の始業時間を遅くする(朝8時30分以降にすることが望ましい)17

まとめ

  • 日本人には寝不足が多い
  • 寝不足を放置すると、心身への影響大(高血圧、心臓血管疾患、肥満、糖尿病etc.)
  • 寝不足を放置すると、仕事・学校などへの悪影響も及ぼす
  • 寝不足は放置しない、解決しないなら睡眠外来へご相談ください

Reference

  1. Chattu VK, Sakhamuri SM, Kumar R, Spence DW, BaHammam AS, Pandi-Perumal SR. Insufficient Sleep Syndrome: Is it time to classify it as a major noncommunicable disease? Sleep Sci. 2018 Mar-Apr;11(2):56-64. doi: 10.5935/1984-0063.20180013. PMID: 30083291; PMCID: PMC6056073. ↩︎
  2. 健康づくりのための睡眠ガイド(2023)の内容を詳細に紹介!(その1) ↩︎
  3. 健康づくりのための睡眠ガイド(2023)の内容を詳細に紹介!(その2)成人期の睡眠 ↩︎
  4. 健康づくりのための睡眠ガイド(2023)の内容を詳細に紹介!(その3)こどもの睡眠 ↩︎
  5. Liu X, Uchiyama M, Kim K, Okawa M, Shibui K, Kudo Y, Doi Y, Minowa M, Ogihara R. Sleep loss and daytime sleepiness in the general adult population of Japan. Psychiatry Res. 2000 Feb 14;93(1):1-11. doi: 10.1016/s0165-1781(99)00119-5. PMID: 10699223. ↩︎
  6. Institute of Medicine (US) Committee on Sleep Medicine and Research. Sleep Disorders and Sleep Deprivation: An Unmet Public Health Problem. Colten HR, Altevogt BM, editors. Washington (DC): National Academies Press (US); 2006. PMID: 20669438. ↩︎
  7. Hafner M, Stepanek M, Taylor J, Troxel WM, van Stolk C. Why Sleep Matters-The Economic Costs of Insufficient Sleep: A Cross-Country Comparative Analysis. Rand Health Q. 2017 Jan 1;6(4):11. PMID: 28983434; PMCID: PMC5627640. ↩︎
  8. https://www.mof.go.jp/zaisei/financial-structure/financial-structure-02.html ↩︎
  9. Hafner M, Stepanek M, Taylor J, Troxel WM, van Stolk C. Why Sleep Matters-The Economic Costs of Insufficient Sleep: A Cross-Country Comparative Analysis. Rand Health Q. 2017 Jan 1;6(4):11. PMID: 28983434; PMCID: PMC5627640. ↩︎
  10. Mitler MM, Carskadon MA, Czeisler CA, Dement WC, Dinges DF, Graeber RC. Catastrophes, sleep, and public policy: consensus report. Sleep. 1988 Feb;11(1):100-9. doi: 10.1093/sleep/11.1.100. PMID: 3283909; PMCID: PMC2517096. ↩︎
  11. スマホと睡眠 〜見る時間だけでなく、姿勢や距離も重要〜 ↩︎
  12. カフェインに対する向き合い方~15時以降のカフェイン摂取を避けよう~ ↩︎
  13. アルコールと睡眠 ↩︎
  14. 昼に太陽光を浴びて、夜は光を避けましょう。光に気を付けると、健康にも良いって知ってましたか? ↩︎
  15. 睡眠の質を上げる微量栄養素 ↩︎
  16. 健康づくりのための睡眠ガイド(2023)の内容を詳細に紹介!(その7)睡眠に注意が必要な交替制勤務 ↩︎
  17. 子どもに早寝早起きは必要? ↩︎