睡眠薬と心臓病の関係性。睡眠薬を使う場合には種類にも注意を

こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。

心臓病と睡眠の間には相互に関係性があります。睡眠が悪ければ、心臓病のリスクが上がり、心臓病があることでも不眠症が増えます
実際、不眠症(入眠障害や中途覚醒等があり、日中の機能が低下している状態)があることで将来の心臓病のリスクが高くなり、心臓病があることで不眠症が増えることが様々な調査で示されています(1-2)。
不眠症があって、どうしても寝付けない時には、まずは行動療法や生活習慣改善が重要です。その上で、改善が見られない場合は、睡眠薬の使用を検討します。睡眠薬を使用して不眠症を治療した場合、心臓病のリスクにどのような影響があるのでしょうか?

近年、日本の研究グループから面白い報告が出ています。
高齢者(※65歳以上)が心不全で入院してから退院した後に、内服していた睡眠薬の種類によって、再度入院する際のリスクが異なるというものです(3)。


要約すると、オレキシン受容体拮抗薬(この場合はスボレキサント)の方が、ベンゾジアゼピン系やZ-Drug(いわゆる非ベンゾジアゼピン系)に比べると再入院のリスクが低いというものでした(3)。なお、過去の日本の別グループからの報告(4)では、心不全患者さんに対して、Z-Drugの方がベンゾジアゼピン系よりも再入院のリスクが有意に低いという結果もありますが、本研究ではベンゾジアゼピン系とZ-Drugの間では、差がつかなかったようです。

ベンゾジアゼピン系の薬には筋弛緩作用がありますので、睡眠時無呼吸症候群のリスクを高める参考記事)という報告もあり(5)、そのような作用が影響している可能性があります。その点でも、筋弛緩作用の比較的弱いZ-Drugや、筋弛緩作用がゼロであるオレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬の睡眠薬の方がベンゾジアゼピン系よりも望ましいと言えるでしょう。

当院は使用する睡眠薬についても確かな知識をもって、患者さんに適切/安全なものを推奨・ご提案しております参考記事)。皆さまの良い眠りのためにも、睡眠外来をご活用頂ければと思います。

Reference

(1) Sofi, F., Cesari, F., Casini, A., Macchi, C., Abbate, R., & Gensini, G. F. (2014). Insomnia and risk of cardiovascular disease: a meta-analysis. European journal of preventive cardiology21(1), 57–64. https://doi.org/10.1177/2047487312460020

(2) Hayes, D., Jr, Anstead, M. I., Ho, J., & Phillips, B. A. (2009). Insomnia and chronic heart failure. Heart failure reviews14(3), 171–182. https://doi.org/10.1007/s10741-008-9102-1

(3) Saito, T., Nojiri, S., Naito, R., & Kasai, T. (2024). Rehospitalisation risk by hypnotics class in older patients with heart failure: a cohort study utilizing administrative claims data in Japan. Open heart11(2), e002889. https://doi.org/10.1136/openhrt-2024-002889

(4) Sato, Y., Yoshihisa, A., Hotsuki, Y., Watanabe, K., Kimishima, Y., Kiko, T., Kanno, Y., Yokokawa, T., Abe, S., Misaka, T., Sato, T., Oikawa, M., Kobayashi, A., Yamaki, T., Kunii, H., Nakazato, K., Ishida, T., & Takeishi, Y. (2020). Associations of Benzodiazepine With Adverse Prognosis in Heart Failure Patients With Insomnia. Journal of the American Heart Association9(7), e013982. https://doi.org/10.1161/JAHA.119.013982

(5) Hsu, T. W., Chen, H. M., Chen, T. Y., Chu, C. S., & Pan, C. C. (2021). The Association between Use of Benzodiazepine Receptor Agonists and the Risk of Obstructive Sleep Apnea: A Nationwide Population-Based Nested Case-Control Study. International journal of environmental research and public health18(18), 9720. https://doi.org/10.3390/ijerph18189720