これまでにご紹介したコラムでは、睡眠リズムには、昼夜を判断し、眠気とも関連するホルモンである「メラトニン」の分泌が強く影響している1こと、メラトニンは昼間に光を浴びると分泌量が増える2ことをご説明しました。
今回は、睡眠リズムと食事の関係について、今までに分かっていることを簡単にご説明したいと思います。
良い睡眠に役立つのは「日の光」だけなのでしょうか?
答えは、食事「も」良い睡眠にとって大事なようです。
28カ国の大学生約2万人を対象に、朝ご飯の摂取状況と、睡眠時の問題について調べた研究があります3。
結果は、以下の通り、朝ご飯を毎日食べない学生は、悪い睡眠状況と関係しているというものでした。
朝ご飯との関係を検討された睡眠の問題 | 朝ご飯を食べる 頻度 | 朝ご飯を食べる頻度と睡眠の問題の関係 |
---|---|---|
深刻な睡眠の問題がある | 毎日 時々 稀に/食べない | 1.0倍 (基準) 1.6倍 2.4倍 |
眠りが短い | 毎日 時々 稀に/食べない | 1.0倍 (基準) 1.4倍 1.6倍 |
眠りが浅い・落ち着かない | 毎日 時々 稀に/食べない | 1.0倍 (基準) 1.1倍 1.9倍 |
子ども(2〜6歳)にとっても「栄養豊富な食事」+「光」は大事
栄養や光は、子どもにとっても大事です。
保育園児(2〜6歳)906名が参加した「食事」と「光」と睡眠の関係を調べた研究があります4。
それによると、栄養に富んだ朝食を摂っていて、朝日に当たっている子どもは、そうでない子どもに対して、朝型の生活スタイル(早寝早起き)が多い結果でした。また、朝型の子は、精神状態が落ち着いた子(怒りにくい、抑うつ傾向ではない)が多いという結果でした。
なぜ「食事」が眠りに影響するのでしょうか?
それは、正常な睡眠の維持に必要な「セロトニン」や「メラトニン」の合成に、必須アミノ酸(人の生活に必要なたんぱく質の内、食事でしか得られない栄養)のひとつである「トリプトファン」が必要だから、というのが一つの説明として考えられています5。
「トリプトファン」が多く含まれる食事は、以下のようなものが挙げられます。
日本の大学生の研究でも、「トリプトファン」を多く含む朝食を摂り、朝日を浴びる(研究内では5000lx以上の明るい環境下)ことで、夜間のメラトニン分泌開始時間が早くなり(=夜早くに眠くなる)、体内時計を前倒しにリセットできると報告されています6。
朝食にバナナを一本足し、朝日を浴びるだけでも、睡眠には良い影響があるかもしれません。
近年、食事タイミングが睡眠に与える影響を検討した論文が増えています7。
近年出版されたレビューの中で報告されているのは、主に以下のようなことです。
朝食欠食と睡眠の関係については、概ね研究結果が似ているようです。
食事を摂る時間が早いか遅いかで、睡眠に違いはあるのか調査した研究によると、結果はばらけているようです。
いっぽう、人の身体の仕組みとして、眠る時間の近くで食事を摂ってしまうと、胃もたれを起こしたり、食べ物の消化の影響で深部体温が下がりづらくなり、睡眠を悪化させてしまったりする可能性があります。そのため、良い眠りのためには、寝る直前の食事は避けた方が賢明でしょう。
少し変わったところで、「断食」と睡眠の関係を探った研究もあります。
「断食」については、「日中の断食」と「断続的な断食」の2つに分かれていました。
「日中の断食」についての研究は、全てラマダンで絶食した人を対象としていました。
(※ラマダンとは、イスラム教徒が行う宗教的な修行です。ラマダンの期間中は、約1ヶ月間、日中は水程度のものしか補給しませんが、日が沈んでいる間は飲食自由です。)
「間欠的な断食」とは、数時間〜数日間続く断食で、これはカロリー摂取をしない、もしくは最低限のカロリーしか摂取しないことを意味します。
ラマダンのために「日中の断食」をしている人を対象とした20研究のうち、結果は以下のようにばらけていました。
「間欠的な断食」をしている人は、睡眠とは目立った関係がないという結果でした。
このように、断食と睡眠の間の関係については、さらなる研究が必要なようです。
本コラムでは、「光」だけではなく「食事」も睡眠に影響するということをご説明しました。
良い眠りのために役立ちますので、以下のことを生活の中でぜひ実践してみてください。