就寝前の入浴は睡眠に良い?

就寝前の入浴は睡眠に良い?

こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。

「夜、お風呂に入るとリラックスできて、よく眠れる気がする」
多くの方が、このように感じたことがあるのではないでしょうか。その感覚は、実は科学的にも裏付けられています。

今回は、就寝前の入浴と睡眠の質の関係について、多くの研究結果を分析した論文を基に、誰にでも分かりやすく解説していきます [1]。

なぜ、入浴が睡眠に良いのか?鍵は「深部体温」

質の良い睡眠を得るためには、体の内部の温度である「深部体温」を下げることが重要です [2]。私たちは眠りにつくとき、手足など体の末端から熱を放出(熱放散)して、深部体温を効率的に下げています。赤ちゃんが眠くなると手足が温かくなるのは、この熱放散が活発に行われているサインです [1]。

就寝前に入浴すると、一時的に深部体温が上がります。その後、お風呂から上がると、体は上がった体温を元に戻そうとして、手足の血管を広げ、熱放散を活発に行います。この 深部体温の急激な低下 が、自然で深い眠りを誘うスイッチとなるのです [1, 2]。

研究データが示す「入浴」と「睡眠」の深い関係

今回参考にしている論文は、これまでに行われた「就寝前の入浴やシャワーが睡眠に与える影響」を調査した17件の研究を統合し、科学的に分析したものです [1]。
これらの研究は、健康な若者からご高齢の方、不眠に悩む方まで、様々な人々を対象に行われています [1]。
具体的な研究の内容を表にまとめました。(※一部抜粋)。

著者
(研究年)
調べていること対象者
(人数)
何をしたのか体のどこを水につけたのか水温と時間実施タイミング
Cherian
(2012)
足浴と入眠遅延の関係がん患者
(n=40)
足浴脛の真ん中まで40–45℃を15分就寝30分前
Chiu
(2017)
足浴と入眠遅延の関係外傷性脳損傷患者
(n=23)
足浴足首の上まで40℃を30分就寝1–2時間前
Furushima
(2009)
足浴と不眠の関係不眠を訴える入院患者
(n=10)
足浴足首の下まで40.1℃を15分就寝2.5時間
Dorsey
(1996)
温かいもしくは熱い入浴と入眠遅延の関係不眠の高齢者
(n=9)
入浴胸郭の中央まで(温かい)37.5–38.5℃(熱い)40–40.5℃を30分就寝1.5時間前
Dowdell
(1992)
入浴とREM睡眠・徐波睡眠の関係睡眠時無呼吸症候群患者
(n=7)
入浴胸の上まで41℃を30分就寝2.5時間前
Horne
(1985)
ぬるいもしくは熱い入浴と夜間の睡眠状態の関係健康な若い女性
(n=6)
入浴胸郭の中央まで(ぬるい)41.0℃(熱い)35.5℃の組み合わせを30分就寝5時間以上前
…省略
(※Haghayegh S, et al. “Before-bedtime passive body heating by warm shower or bath to improve sleep: A systematic review and meta-analysis”を元に作成)

この分析によると、入浴(シャワーや足浴を含む)は睡眠に次のような良い影響を与えることがデータで示されています [1]。

効果1:寝つきが良くなる(入眠時間の短縮)

次に、「入浴」「シャワー」「足浴」すべて含めて「睡眠前に体を温めるもの」としてまとめ、睡眠との関係を調べました。

就寝前に入浴などで体を温めた場合、ベッドに入ってから眠りにつくまでの時間(入眠潜時)が平均で 約8分短縮 されることが分かりました(入浴なしの平均: 25分、入浴ありの平均: 17分)。

効果2:睡眠の質が高まる(睡眠効率の改善

「睡眠効率」とは、ベッドにいた時間のうち、実際に眠っていた時間の割合を示す指標です。この数値が高いほど、質の良い睡眠と言えます。分析の結果、入浴によって睡眠効率が有意に改善することが示されました (入浴なしの平均:83%、入浴ありの平均:85%)。

快眠につながる入浴の「ゴールデンルール」

では、どのように入浴するのが最も効果的なのでしょうか? 研究の分析結果から、以下の3つのポイントが推奨されています [1]。

  1. タイミング:就寝の「1~2時間前」 お風呂から出て深部体温が下がり始めるタイミングでベッドに入ると、スムーズに入眠できます。そのため、就寝の1~2時間前に入浴を済ませておくのが理想的です [1, 2]。
  2. 時 間:わずか「10分」でも効果あり 全身浴やシャワー、足浴などを10分間行うだけでも、寝つきを良くする効果が確認されています [1]。もちろん、リラックスのために20分程度ゆっくりと湯船に浸かるのも良いでしょう。
  3. 温 度:お湯は「40~42.5℃」が目安 少し熱めと感じるかもしれませんが、40~42.5℃のお湯が深部体温を効率的に上げ、その後の熱放散を促すのに効果的であると報告されています [1]。

ただし、高血圧や心臓に持病のある方は、熱いお湯が体に負担をかける可能性もありますので、かかりつけの医師にご相談ください。

入浴の条件入浴が入眠にかかる時間に与える効果はどうなるか?(効果量; Cohen’s d)
入浴タイミング
就寝前<1時間または>2時間前の入浴 (vs.入浴なし)-0.2 (-0.5, 0.1)
就寝1–2時間前の入浴(vs.入浴なし)-1.0 (-1.5, -0.5)*効果あり
入浴の時間
10–20分の入浴(vs.入浴なし)-0.3 (-0.9, 0.3)
20分を超える入浴(vs.入浴なし)-0.6 (-0.9, -0.3)*効果あり
(※Haghayegh S, et al. “Before-bedtime passive body heating by warm shower or bath to improve sleep: A systematic review and meta-analysis”を元に作成)

まとめ

今回のコラムでは、就寝前の入浴と睡眠について、科学的なデータに基づき以下の点をお伝えしました。

  • 就寝前の入浴は、眠りを誘う「深部体温」の低下を助け、科学的にも睡眠の質を高める効果がある
  • 入浴により、「寝つきにかかる時間」が短縮し、「睡眠効率」が向上するデータがある
  • 効果的な入浴法は、就寝の「1~2時間前」に「40~42.5℃」のお湯に「10分」程度浸かること

今回ご紹介した入浴法は、ご自宅で手軽に試せる睡眠改善策の一つです。しかし、これらのセルフケアを試しても寝つきの悪さや日中の眠気が改善しない場合、専門的な治療が必要な睡眠障害が隠れている可能性もあります。

睡眠に関するお悩みは、一人で抱え込まずに専門家へ相談することが、改善への第一歩です。当クリニックでは、患者様一人ひとりの症状に合わせた診療を行っておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。

忙しい毎日をお過ごしかと思いますが、今夜は少しだけ時間をとって、就寝前にゆっくりお風呂に浸かってみてはいかがでしょうか。その一杯のお湯が、明日を元気に過ごすための質の良い睡眠につながるかもしれません。

参考文献

[1] Haghayegh, S., Khoshnevis, S., Smolensky, M. H., Diller, K. R., & Castriotta, R. J. (2019). Before-bedtime passive body heating by warm shower or bath to improve sleep: A systematic review and meta-analysis. Sleep Medicine Reviews, 46, 124-135.
[2] 厚生労働省. e-ヘルスネット. 快眠と生活習慣. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-004.html (2025年8月25日閲覧)

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