「うちの子は寝るのが遅いのでは」と気になっても、何を基準に考えればよいのか迷う方は少なくありません。
子どもの睡眠は、年齢だけでなく、家庭での生活リズムや睡眠環境、文化的な背景など、さまざまな要因の影響を受けると考えられています。そのため、単純に「早い・遅い」だけで判断するのではなく、年齢に合っているか、睡眠時間が足りているか、生活の中で無理が出ていないかという視点でみることが大切です。
今回のテーマでは、乳幼児では国際的に比較して、アジア圏の子どもは欧米圏より就寝時刻が遅く、総睡眠時間が短い傾向が示されています[1]。一方、日本の中高生世代では、全国調査で近年の遅寝・短睡眠の増加傾向が報告されており、さらに短い睡眠時間が心の不調の指標と関連する可能性も示されています[2][3]。
今回は子どもの睡眠時間を考えるうえで大切な視点を一般の方にもわかりやすく解説していきます。
乳幼児を対象とした国際調査では、生後0〜36か月の子ども29,287人が解析されました[1]。その結果、アジア圏の子どもは欧米圏の子どもと比べて、平均就寝時刻が遅く、総睡眠時間が短いことが示されました。具体的には、平均就寝時刻は欧米圏で20時42分、アジア圏で21時44分、総睡眠時間は欧米圏で13.02時間、アジア圏で12.31時間でした(表1)。さらに、調査対象17地域の中では、日本の乳幼児の総睡眠時間は11.6時間で最も短いことが判明しました。

以前当院で取り上げた、厚生労働省による「健康づくりのための睡眠ガイド2023」に関するコラムで紹介した通り、乳幼児から幼児期にかけては年齢ごとに必要な睡眠時間の目安があり、成長に応じて十分な睡眠を確保していくことの大切さが呼びかけられています。例えば乳児4〜12か月では24時間あたり12〜16時間の睡眠が推奨されています。今回の調査で示された日本の11.6時間は出生〜36か月全体の平均であり、この推奨値と単純比較はできませんが、日本の乳幼児が国際比較で短睡眠側に位置していたことを踏まえると、少なくとも一部の乳児では、年齢相応の睡眠が十分に確保できていない可能性に注意が必要です。
次に、日本の思春期世代の睡眠に着目してみます。ここでは、日本全国の中高生54万5,285人を対象とした反復横断調査が参考になります[2]。この研究では、2004年から2017年にかけて、日本の思春期世代が抱える不眠症状や睡眠の質は改善傾向を示した一方、短時間睡眠と遅い就寝は増加傾向を示しました。つまり、「眠れない」と感じる子どもが単純に増えているわけではない一方で、寝る時刻が後ろにずれ、睡眠時間が削られている傾向が続いていると言えます。
注目すべきは、ここで問題になっているのは「睡眠の質」だけではないことです。夜更かしが増えれば、起床時刻を大きく遅らせにくい平日には、結果として睡眠時間が短くなりやすくなります。実際、この研究の分析では、7時間未満睡眠の割合が2004年の71.9%から2017年の78.1%へ増加していました(表2)。
「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を参照してみると13〜18歳では24時間あたり8〜10時間の睡眠が推奨されています。しかし今回の日本の中高生を対象とした研究では、学年が上がるにつれて就寝時刻が遅くなり、約8割の中高生が7時間未満睡眠となっていることが示されました。多くの中高生が年齢相応の睡眠を十分に確保できていないことになります。思春期だから夜ふかしは仕方ないと受け止めるのではなく、推奨される睡眠時間を継続的に下回っていないかという視点でみることが大切でしょう。

日本の12〜18歳の中高生15,637人を対象とした別の研究では、睡眠時間と抑うつ・不安の指標との関連が調べられました[3]。その結果、男子では8.5〜9.5時間、女子では7.5〜8.5時間眠っている群で、抑うつ・不安の指標が最も低い傾向が示されました。一方で、7.5時間未満の群では、男女とも学年にかかわらず、抑うつ・不安指標が高い割合が有意に高くなっていました。
この論文で重要なのは、「短い睡眠ほどよくない可能性がある」という点だけではありません。学年が上がるにつれて、就寝時刻が遅くなり、睡眠時間が短くなることも明確に示されています。たとえば男子では、平均就寝時刻が中学1年生で22時40分、高校3年生で23時58分となり、平均睡眠時間は471分から406分へ短縮していました。女子でも、中学1年生と高校3年生を比較して22時56分から23時57分へ就寝が遅れ、睡眠時間は453分から398分へ短くなっていました。
さらに、この研究では就寝時刻が不規則な群で、抑うつ・不安指標が高いことも示されています。つまり、「何時間寝たか」だけではなく、何時に寝ているか、毎日どれくらい一定かも重要だということです。

今回のテーマから言えるのは、乳幼児ではアジア圏、特に日本で遅寝・短睡眠傾向がみられ、日本の思春期でも遅寝・短時間睡眠は軽視できないということです。
保護者の視点で見るべきポイントは次の3つです。
まず、年齢に比べて就寝時刻が極端に後ろへずれていないか。
次に、就寝が遅い結果として睡眠時間が削られていないか。
そして、寝る時刻が日によって大きく乱れていないかです。
今回お話した通り、とくに思春期では、睡眠時間の短さや就寝時刻の不規則さが、心身の不調のサインと重なっていないかを丁寧にみる必要があります。「寝るのが遅い」という悩みは、単なる生活習慣の問題として片づけられがちです。しかし実際には、乳幼児では文化や睡眠環境の影響、思春期では学年進行にともなう遅寝・短睡眠の進行といった、年齢ごとに異なる背景が考えられます。だからこそ、年齢・睡眠時間・規則性の側面からそれぞれ考えることが、保護者にとって最も実用的な視点といえるでしょう。
参考文献
[1]Mindell JA, Sadeh A, Wiegand B, How TH, Goh DY. Cross-cultural differences in infant and toddler sleep. Sleep Med. 2010 Mar;11(3):274-80. doi: 10.1016/j.sleep.2009.04.012. Epub 2010 Feb 6. PMID: 20138578.
[2]Otsuka Y, Kaneita Y, Spira AP, Mojtabai R, Itani O, Jike M, Higuchi S, Kanda H, Kuwabara Y, Kinjo A, Osaki Y. Trends in sleep problems and patterns among Japanese adolescents: 2004 to 2017. Lancet Reg Health West Pac. 2021 Mar 1;9:100107. doi: 10.1016/j.lanwpc.2021.100107. PMID: 34327435; PMCID: PMC8315371.
[3]Ojio Y, Nishida A, Shimodera S, Togo F, Sasaki T. Sleep Duration Associated with the Lowest Risk of Depression/Anxiety in Adolescents. Sleep. 2016 Aug 1;39(8):1555-62. doi: 10.5665/sleep.6020. PMID: 27306271; PMCID: PMC4945315.