眠れないのにうつの薬? 一部の抗うつ薬の睡眠への作用とその研究

「眠れない」と相談したのに、医師から抗うつ薬を提案され、戸惑った方もいるのではないでしょうか。

「うつ病ではないのに、なぜ抗うつ薬を飲むのか」「脳の働きを変えてしまうのではないか」「一度飲み始めたら、ずっと続けなければならないのではないか」と、不安を感じることもあるかもしれません。

しかし、実は「抗うつ薬」という分類名だけで、薬の作用を理解することはできません。抗うつ薬の中には、ミルタザピンやトラゾドンのように、うつ病だけでなく、睡眠に関係する作用が広く知られている薬があります。

本記事では、一部の抗うつ薬と不眠についてどこまで分かっているのかを解説します。

眠れないのに、なぜ抗うつ薬が提案されるのか

「抗うつ薬」は、その名前から、うつ病の人に投与される薬だと思わてしまうことがあります。

しかし、薬の分類名は、その薬が持つ作用や臨床での使われ方をすべて表しているわけではありません。ある病気の治療薬として開発された薬であっても、別の症状に関係する作用が注目され、臨床現場で検討されることがあります。

ミルタザピンもその一つです。

ミルタザピンは抗うつ薬に分類されますが、低用量で服用した際は、眠気を催したり、夜間の睡眠を維持したりする作用が注目されてきました。そのため、夜中に何度も目が覚める「中途覚醒」や、予定より早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」がある患者さんに対して、選択肢として検討されることがあります。

実際、不眠症に対して使用されることも多いミルタザピンを、プラセボと比較した質の高い臨床試験として、2025年に報告されたDREAMING試験があります[1]。この研究の重要な点は、うつ病患者の睡眠を副次的に調べたのではなく、主に不眠症状に悩む患者を対象として、低用量ミルタザピンの効果を直接検討したことです。

低用量ミルタザピンでは6週時点の改善が報告された

DREAMING試験は、オランダの一般診療所で行われた、無作為化二重盲検プラセボ対照試験です[1]。

対象となったのは、18~85歳の不眠症患者80人でした。参加者には、中途覚醒または早朝覚醒があり、患者本人と医師が、非薬物療法だけでは十分ではないと判断していました。

参加者は、次の3群に無作為に分けられました。

・低用量ミルタザピン群:7.5~15mg

・低用量アミトリプチリン群:10~20mg

・プラセボ群

治療期間は16週間で、その後も最長52週間まで経過が追跡されました。なお、DREAMING試験では同じように眠気を生じさせる抗うつ薬であるアミトリプチリンも比較されていますが、本記事では、睡眠への作用が注目される薬の一例として、ミルタザピンの結果を中心に紹介します。

不眠症状の評価には、Insomnia Severity Index(ISI:不眠重症度質問票)が用いられました。ISIは0~28点で評価され、点数が高いほど不眠症状が重いことを示します。研究開始時の平均ISIは、いずれの群も約19点で、中等度の不眠に相当しました。

6週間後、ミルタザピン群のISIは平均10.2点、プラセボ群は平均15.8点でした。両群の推定平均差は−6.0点で、統計学的にも、臨床的にも意味のある差と判断されました[1]。

さらに、6週間後にISIが開始時より7点を超えて低下した「改善」の割合は、ミルタザピン群:52% に対し プラセボ群:14% でした。

ISIが10点以下となった「回復」の割合も、ミルタザピン群:56% に対しプラセボ群:14% となっていました。

この結果から、低用量ミルタザピンは、少なくとも一部の不眠症患者において、その不眠症状を改善する可能性が示されました。睡眠時間についても、ミルタザピン群では6週および12週時点で、プラセボ群より自己申告による睡眠時間が約1時間長いという結果が得られています。

図1 低用量ミルタザピン服用後の不眠重症度指数の変化

レスリン(トラゾドン)は睡眠の質にどう影響するのか

不眠に対して使用されることがある抗うつ薬は、ミルタザピンだけではありません。レスリンは、一般名をトラゾドンという薬剤であり、抗うつ薬に分類されていますが、諸外国を中心に不眠に対して使われることが非常に多い薬剤です。低用量では睡眠に関係する作用が中心となり、中途覚醒や浅い眠りが目立つ場合に検討されることがあります。

Rothらは、うつ病などの精神疾患を伴わない原発性不眠症の患者16人を対象に、トラゾドン50mgの睡眠への影響を調べました[2]。この研究では、同じ参加者がトラゾドンとプラセボの両方を使用する、無作為化二重盲検プラセボ対照試験が行われました。それぞれを就寝30分前に7日間服用し、脳波などを測定する睡眠ポリグラフ検査によって睡眠の状態が評価されています。

その結果、トラゾドンを服用した場合は、プラセボと比べて夜間に目が覚めた回数が少なく、浅い睡眠に相当するステージ1睡眠も減少しました。7日間服用した時点では、深い睡眠に相当する徐波睡眠が増加していました。また、参加者自身が評価した「眠りにくさ」も軽減する方向の結果がみられました。

この研究は、小規模かつ短期間の研究のため、トラゾドンがすべての不眠症患者の睡眠を改善すると結論づけることはできませんが、それでも、不眠症で夜間の中途覚醒や睡眠の深さを改善させられる可能性を、客観的な睡眠検査で示した研究の一つです。実際に使用する場合は、睡眠への効果を考えながら、医師と相談し、利用是非を判断することが重要です。

トラゾドンと神経可塑性に関する研究

抗うつ薬は、脳の働きを抑えるだけの薬ではありません。トラゾドンについても、神経細胞の働きを支える仕組みへの作用が、基礎研究で調べられています。

ラットを用いた研究では、トラゾドンの継続投与後に、前頭前野と海馬でBDNFの発現が増加しました。また、BDNFの作用を受け取るTrkBは前頭前野で増加し、神経細胞内の情報伝達に関わるCREBも、前頭前野・海馬・視床下部で活性化を示す変化が報告されています[3]。

BDNFは、神経細胞の機能維持や、神経細胞同士をつなぐシナプスの形成・変化に関わる物質です。この結果から、トラゾドンは、神経の働きを支える仕組みに関係する可能性が考えられています。ただし、現在はラットを用いた基礎研究の段階で、人における神経保護効果については研究が引き続き進められています。

ヒトの海馬では神経前駆細胞の増加が報告されている

抗うつ薬と人の脳組織との関係を調べた研究の一つが、Boldriniらによる死後脳研究です[4]。

この研究では、次の19人の海馬が比較されました。

・抗うつ薬を使用していなかった大うつ病患者:5人

・抗うつ薬を使用していた大うつ病患者:7人

・精神疾患のない対照者:7人

抗うつ薬治療群では、SSRIを使用していた人が4人、三環系抗うつ薬を使用していた人が3人でした。薬の使用状況は診療記録だけでなく、脳組織の薬物検査でも確認されています。研究者らは、記憶や情動、ストレス反応に関係する海馬の「歯状回」という領域を調べました。その結果、抗うつ薬を使用していた大うつ病患者では、未治療の大うつ病患者や対照者と比べて、神経前駆細胞が多く認められました[4]。

神経前駆細胞とは、将来的に神経細胞などへ変化する可能性を持つ、いわば神経細胞の前段階にある細胞です。また、細胞分裂の指標となる細胞は、特に三環系抗うつ薬を使用していた群で多く、抗うつ薬治療群では海馬歯状回の容積も大きいという結果でした。

この結果は、抗うつ薬は海馬における細胞の増殖や神経可塑性に関係し、長期的に脳の働きを構造的に改善・回復させる方向に働く可能性を示しています。

図2 抗うつ薬使用者の海馬歯状回における神経前駆細胞と分裂細胞

抗うつ薬という名前だけで判断せず、使用目的を確認することが大切

ミルタザピンやトラゾドンは抗うつ薬に分類されますが、睡眠に関係する作用も注目されています。

「抗うつ薬」という分類に振り回される必要はありません。大切なのは、薬の名前ではなく、「なぜこの薬が自分に提案されたのか」「どのような働きがある薬なのか」「どのような副作用に注意すればよいのか」を、医師に確認することです。

また、飲み始めた後も、眠りの変化や翌日の眠気、体調の変化を医師に伝えながら、自分に合った使い方を相談していきましょう。


参考文献

[1]Bakker MH, Hugtenburg JG, Bet PM, Twisk JW, van der Horst HE, Slottje P. Effectiveness of low-dose amitriptyline and mirtazapine in patients with insomnia disorder and sleep maintenance problems: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial in general practice (DREAMING). Br J Gen Pract. 2025 Jun 26;75(756):e474-e483. doi: 10.3399/BJGP.2024.0173. PMID: 39814428; PMCID: PMC12199994.

[2]Roth AJ, McCall WV, Liguori A. Cognitive, psychomotor and polysomnographic effects of trazodone in primary insomniacs. J Sleep Res. 2011 Dec;20(4):552-8. doi: 10.1111/j.1365-2869.2011.00928.x. Epub 2011 May 30. PMID: 21623982; PMCID: PMC3165092.

[3]Carboni L, Rullo L, Caputi FF, Stamatakos S, Candeletti S, Romualdi P. Chronic Trazodone and Citalopram Treatments Increase Trophic Factor and Circadian Rhythm Gene Expression in Rat Brain Regions Relevant for Antidepressant Efficacy. Int J Mol Sci. 2022 Nov 14;23(22):14041. doi: 10.3390/ijms232214041. PMID: 36430520; PMCID: PMC9698904.

[4]Boldrini M, Underwood MD, Hen R, Rosoklija GB, Dwork AJ, John Mann J, Arango V. Antidepressants increase neural progenitor cells in the human hippocampus. Neuropsychopharmacology. 2009 Oct;34(11):2376-89. doi: 10.1038/npp.2009.75. Epub 2009 Jul 15. PMID: 19606083; PMCID: PMC2743790.