お子さんのいびきや口呼吸を、「まだ子どもだから」「少し様子を見ましょう」と言われたことはないでしょうか。
しかし、子どもの睡眠時無呼吸は、大人と同じ基準でそのまま判断できるとは限りません。小児では、睡眠検査での評価基準や治療の考え方が成人と異なり、より厳しい基準での対応が必要になることがあります。米国小児科学会のガイドラインでは、小児の睡眠時無呼吸は、行動面や神経認知機能、成長などに関わる可能性があることが記載されており[1]、早めに見逃さず評価することが大切です。
この記事では、子どもの睡眠時無呼吸を大人と同じ感覚で見てはいけない理由と、検査・治療で確認したいポイントを、保護者の方にもわかりやすく整理します。
まず大切なのは、子どもと大人では睡眠時無呼吸の診断基準が違うという点です。
成人では、ICSD-3(睡眠の病気を分類する国際的な基準)で、症状や併存症がある場合に1時間あたり5回以上の閉塞性イベント、あるいは症状がなくても15回以上でOSA(閉塞性睡眠時無呼吸)の診断基準に該当します[2] 。一方、小児では、いびき、睡眠中の努力呼吸、日中の影響などの所見に加え、1時間あたり1回以上の閉塞性イベントまたは閉塞性低換気が診断基準となります。
睡眠時無呼吸の診断にはAHI(睡眠1時間あたりに無呼吸や低呼吸が何回あるかを示す指標)という概念を用います。成人では「AHI 5未満は正常」という感覚が広く使われますが、子どもでは大人と違い、AHI 5未満でも軽く捉えてはいけません。 2019年の米国耳鼻咽喉科学会の小児扁桃摘出術ガイドラインでも、小児のPSG(睡眠中の呼吸や脳波、酸素の状態などを調べる詳しい睡眠検査)の結果の正常値はAHI<1とされれています[3]。
つまり子どもにおいては、成人の感覚だけで捉えるのは危うく、AHIが1を超えた時点で治療を検討すべきです。そして、治療の検討にあたっては数値だけでなく、いびきの頻度、口呼吸、扁桃・アデノイドの大きさ、鼻づまり、肥満、日中の困りごとなども含めて評価する必要があります。
表1 睡眠時無呼吸の診断基準の違い

小児OSAが問題なのは、単に「寝ているときにいびきをかく」だけでは済まないことがあるからです。米国小児科学会(AAP)のガイドラインでは、小児OSAは神経認知機能の低下、行動上の問題、成長障害、高血圧、心機能への影響、全身性炎症などと関連すると整理されています[1] 。また、耳鼻咽喉科のガイドラインでも、保護者が確認すべき併存症として、成長の遅れ、学校でのパフォーマンス低下、夜尿、喘息、行動面の問題が挙げられています[3] 。さらには、2024年の米国胸部学会(ATS)のガイドラインでも、未治療の小児OSAは神経認知機能の低下、行動変化、学業成績の低下、生活の質の低下と関連するとされています[4]。
つまり、子どものOSAは、落ち着きのなさ、集中しづらさ、朝の不機嫌、学習の伸び悩み、身長体重の伸びといった形で見えてくることがあります。特に小児では、日中の眠気が大人ほど目立たず、子供特有の不注意であるように見えることもあります。そのため、「とりあえずは様子見」と安易に考えると、見逃しにつながってしまいます。
表2 子どもの睡眠時無呼吸でみられる主なサイン――家庭で気づきやすい症状と受診時に確認したいポイント
AAPガイドラインをもとに作成

保護者の方にもっとも強くお伝えしたいのは、医療機関で子どものAHIを成人の感覚で説明された場合には、一度立ち止まって確認してほしいという点です。たとえば先ほどお伝えしたように「AHIが2だから軽い」「AHIが4だから大丈夫そう」と言われても、その説明が成人基準を前提にしたものなのか、小児基準を踏まえたものなのかで意味が変わります。2019年の耳鼻咽喉科ガイドラインでは、小児でPSGが異常とみなされる目安としてAHI>1が一般的であり、重症の目安としてAHI 10以上が使われることがあると記載されています[3] 。また、AAPガイドラインでは、いびきと症状があればPSGを行うか、睡眠専門医・耳鼻科でより詳しい評価を検討すべきともされています[1]。
つまり、子どもに対して「成人の軽症未満だから経過観察」という説明だけで終わっているなら、小児OSAとしての評価が十分ではありません。小児では、扁桃・アデノイド肥大が強いのか、肥満があるのか、鼻閉が強いのか、症状がはっきりあるのか、学習や行動面の問題があるのかで、治療の優先順位が変わります。逆に言えば、AHIだけを見て「まだ低いから大丈夫」と結論づけるのも不十分です。
さらに、手術をして終わりではない点も見落とせません。ATSガイドラインでは、アデノトンジレクトミー(アデノイドと扁桃を手術で取り除く治療)後も最大40%でOSAが残るとされ、特に肥満、重症例、基礎疾患を持つ子どもで残存しやすいとされています[4] 。耳鼻咽喉科ガイドラインでも、肥満のある子どもでは手術後もOSAが残りやすく、術前PSGや術後の再評価が重要とされています[3]。
したがって、保護者としては、「数値的には軽い」「手術したから終わり」ではなく、継続的に評価と再評価が必要な疾患として理解すべきだと言えるでしょう。
小児の睡眠時無呼吸では、治療によって夜間の呼吸だけでなく、日中の眠気、夜尿、成長への影響などに加え、集中しにくさや落ち着きのなさ、多動傾向など、ADHDに似た症状がみられることがあります。こうした症状には個人差があり、すべてが睡眠時無呼吸だけによるとは限りませんが、適切な評価や治療によって、夜間の呼吸だけでなく日中の行動面や学校生活での困りごとの解決につながるかもしれないという大きなメリットがあります。たとえば、扁桃・アデノイド肥大と睡眠呼吸障害があり、ADHDと診断されていた子どもを対象とした研究では、治療の6か月後に、ADHD混合型の頻度が54.3%から22.9%へ有意に低下したと報告されています[5]。
AAPガイドラインでは、扁桃・アデノイド肥大がある子どもではアデノトンジレクトミー(アデノイドと扁桃を手術で取り除く治療)が第一選択とされています[1]。 一方で、手術をしない場合、あるいは手術後にもOSAが残る場合には、CPAPが推奨されます 。さらに、肥満がある子どもでは減量介入を、ほかの治療に追加して行うことも勧められています。
また、軽症例や術後軽症例では、点鼻ステロイドが選択肢になることがあります。ただし、点鼻ステロイドを第一選択にするわけではなく、長期効果には不明な点もあるため、効果判定と経過観察が必要としています[1]。
さらに、2024年のATSガイドラインでも、術後にOSAが残った子どもに対し、CPAP、体重介入、歯科矯正・顎顔面治療、舌根扁桃への手術、睡眠依存性喉頭軟化症への手術、点鼻ステロイド使用中ならモンテルカスト追加など、複数の選択肢が提案されています[4]。
つまり、子どものOSAは“原因に応じて治療を組み合わせるべき”であり、上気道の状態、肥満、鼻閉、術後残存の部位評価などを踏まえて、耳鼻科・睡眠・小児科が連携して考えるのが本来の形です。保護者の方から見ると、ここが盲点になりやすいところです。「AHIがそこまで高くないから様子見」「手術が難しいから何もできない」と受け取ってしまうと、実際には検討できたはずのCPAP、鼻の治療、体重介入などに進めないことがあります。
治療法は一つではなく、だからこそ“何もしない以外の選択肢”を確認することが大切です。
もし受診先で、
「AHIが5未満だから問題ない」
「ほぼ大人だから大人と同じ基準で考えてよい」
「手術しないなら様子を見るしかない」
といった説明だけで診療が終わっているなら、小児OSAとしての評価が十分かどうかを再確認した方がよい場合があります。
確認したいポイントは大きく3つです。
第一に、その検査結果は小児基準で読まれているか。
第二に、扁桃・アデノイド肥大、鼻閉、肥満などの原因評価がされているか。
第三に、術後や経過観察中の再評価の予定があるか、です。
子どもの睡眠時無呼吸は、成人よりも厳しい基準で評価されるからこそ、“軽そうだから放っておく”ではなく、“子どもの基準で本当に十分評価されたのか”を確認することが大切です。
保護者の方に強くお伝えしたいのは、子どものいびきや無呼吸を、大人の縮小版として扱わないでほしいということです。
検査の数字が一見低く見えても、子どもでは見逃してよいとは限りません。必要に応じて、当院を含む、睡眠を専門とした医療機関での再評価を考えてみてください。
参考文献
[1]Marcus CL, Brooks LJ, Draper KA, Gozal D, Halbower AC, Jones J, Schechter MS, Ward SD, Sheldon SH, Shiffman RN, Lehmann C, Spruyt K; American Academy of Pediatrics. Diagnosis and management of childhood obstructive sleep apnea syndrome. Pediatrics. 2012 Sep;130(3):e714-55. doi: 10.1542/peds.2012-1672. Epub 2012 Aug 27. PMID: 22926176.
[2]Sateia MJ. International classification of sleep disorders-third edition: highlights and modifications. Chest. 2014 Nov;146(5):1387-1394. doi: 10.1378/chest.14-0970. PMID: 25367475.
[3]Mitchell RB, Archer SM, Ishman SL, Rosenfeld RM, Coles S, Finestone SA, Friedman NR, Giordano T, Hildrew DM, Kim TW, Lloyd RM, Parikh SR, Shulman ST, Walner DL, Walsh SA, Nnacheta LC. Clinical Practice Guideline: Tonsillectomy in Children (Update)-Executive Summary. Otolaryngol Head Neck Surg. 2019 Feb;160(2):187-205. doi: 10.1177/0194599818807917. PMID: 30921525.
[4]Ehsan Z, Ishman SL, Soghier I, Almeida FR, Boudewyns A, Camacho M, Carno MA, Coppelson K, Ersu RH, Ho ATN, Kaditis AG, Machado AJ Jr, Mitchell RB, Resnick CM, Swaggart K, Verhulst S. Management of Persistent, Post-adenotonsillectomy Obstructive Sleep Apnea in Children: An Official American Thoracic Society Clinical Practice Guideline. Am J Respir Crit Care Med. 2024 Feb 1;209(3):248-261. doi: 10.1164/rccm.202310-1857ST. PMID: 37890009; PMCID: PMC10840779.
[5]Amiri S, AbdollahiFakhim S, Lotfi A, Bayazian G, Sohrabpour M, Hemmatjoo T. Effect of adenotonsillectomy on ADHD symptoms of children with adenotonsillar hypertrophy and sleep disordered breathing. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2015 Aug;79(8):1213-7. doi: 10.1016/j.ijporl.2015.05.015. Epub 2015 May 27. PMID: 26066853.