残薬や治療遵守(アドヒアランス)にご注意下さい。~治療を遵守して貰うことは医療費だけでなく、アウトカム(治療効果)にとっても重要~

こんにちは。睡眠プライマリケアクリニックです。

今日は日々皆さんが貰っている薬が残ってしまう、”残薬(薬の飲み残し)”やCPAP治療機器を使用している時などに問題になる”治療アドヒアランス(治療の遵守)”についての話題です。

医師や薬剤師から、「薬をどのように飲むのか」「どのように治療機器を使うのか」の説明を受けることがあるかと思います。その時に、その飲み方と違う飲み方・使い方をしたり、治療を中断してしまったりすることがあるかもしれません。

薬を指示された期間飲みきることができずに、処方された薬が残ってしまうということが多く発生しています。日本ではこの”残薬”が多数発生していることが推計されており、研究によっても幅があるのですが1兆円弱(8700億円)のインパクトがあると見積もる研究もあります(1)。日本の医療費が45兆円ほどですから、それなりに大きなインパクトがありますね。

加えて、治療の遵守状況(=治療アドヒアランス)は、治療アウトカム(治療効果)にも影響することが知られています。2002年に行われたメタ分析では、特に慢性疾患である場合(高血圧、高コレステロール血症、胃腸疾患、睡眠時無呼吸症候群)では、治療遵守状況とアウトカム(死亡、症状の有無、血圧/コレステロールレベル等の検査値)との関連が強く、遵守が良い場合には、悪い場合に比べて、26%アウトカムが改善することが示されています(2)。睡眠/精神科領域でも、睡眠相後退症候群(特に光曝露に関して)(3)、睡眠時無呼吸症候群(治療遵守が心臓病発症のリスクと関連)(4)、不眠症(特に行動療法について)(5)、双極性障害(6)等で、治療遵守とアウトカムが関連することが知られています。

実際に外来でも、内服の状況やCPAPを正しく使用できているかを確認させて頂くことがあります。お話しした内容と異なる内服方法が、オーバードーズ(Overdose)になってしまったり、予期せぬ副作用を引き起こしたりする薬剤もあるので注意が必要です。

医療費だけでなく、皆さまの健康のためにも、診察室でのお話/処方箋/CPAP指示書に基づいた、適切な使用をどうぞ宜しくお願い致します。

(Reference)

(1) 厚生労働省科研費 医療保険財政への残薬の影響とその解消方策に関する研究 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000103268.pdf https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/25217

(2) DiMatteo, M. R., Giordani, P. J., Lepper, H. S., & Croghan, T. W. (2002). Patient adherence and medical treatment outcomes: a meta-analysis. Medical care40(9), 794–811. https://doi.org/10.1097/00005650-200209000-00009

(3) Figueiro M. G. (2016). Delayed sleep phase disorder: clinical perspective with a focus on light therapy. Nature and science of sleep8, 91–106. https://doi.org/10.2147/NSS.S85849

(4) Sánchez-de-la-Torre, M., Gracia-Lavedan, E., Benitez, I. D., Sánchez-de-la-Torre, A., Moncusí-Moix, A., Torres, G., Loffler, K., Woodman, R., Adams, R., Labarca, G., Dreyse, J., Eulenburg, C., Thunström, E., Glantz, H., Peker, Y., Anderson, C., McEvoy, D., & Barbé, F. (2023). Adherence to CPAP Treatment and the Risk of Recurrent Cardiovascular Events: A Meta-Analysis. JAMA330(13), 1255–1265. https://doi.org/10.1001/jama.2023.17465

(5) Dong, L., Soehner, A. M., Bélanger, L., Morin, C. M., & Harvey, A. G. (2018). Treatment agreement, adherence, and outcome in cognitive behavioral treatments for insomnia. Journal of consulting and clinical psychology86(3), 294–299. https://doi.org/10.1037/ccp0000269

(6) McIntosh, A. M., Conlon, L., Lawrie, S. M., & Stanfield, A. C. (2006). Compliance therapy for schizophrenia. The Cochrane database of systematic reviews2006(3), CD003442. https://doi.org/10.1002/14651858.CD003442.pub2