帯状疱疹は「皮膚の病気」だけではない── 認知機能や睡眠への影響とワクチンの効果 ──

帯状疱疹と認知症リスク

帯状疱疹は、多くの人が経験しうる身近な病気です。

皮膚の発疹や強い痛みのイメージが強い病気ですが、近年では「認知症との関係」にも注目が集まっています。

台湾の全国健康保険データで帯状疱疹と診断された約4万人を平均6年追跡した研究[1]では、帯状疱疹を発症した人では、認知症と診断されるリスクが約11%高くなったことが報告されています。

一方で、帯状疱疹発症後に抗ウイルス薬治療を受けた人では、認知症と診断されるリスクは約半分に低下しました。

これらは観察研究であり、「帯状疱疹が認知症を直接引き起こす」と証明されたわけではありませんが、帯状疱疹と認知症の発症にはかなりの関連があるようです。

帯状疱疹ワクチン接種と認知症リスク

近年では、より効果の強い「組み換え帯状疱疹ワクチン」の接種が認知症リスクを下げる可能性についても注目されています。

米国での大規模電子カルテ研究[2]では、組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス)を接種した人は、生ワクチン接種者と比較して、6年間の認知症発症リスクが約17%低くなり、認知症と診断されるまでの期間も、平均約5か月長くなったことが示されています。また、英国の研究[3]では、帯状疱疹ワクチンの接種資格があった人は、7年間で認知症と診断される確率が約20%低下しました。

これらの研究結果から、帯状疱疹ワクチンには、帯状疱疹の予防だけでなく、帯状疱疹ウィルスから脳神経を保護する作用の可能性もあるのではないかと考えられています。

なぜ帯状疱疹が認知症と関係するのか

帯状疱疹が認知症と関係する仕組みはまだ完全には解明されていません。

一方で、アルツハイマー病などの認知症では、脳の慢性炎症(神経炎症)が病態に関与すると考えられています[4]。

帯状疱疹の原因である水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は、神経に潜伏し、再活性化すると強い炎症を引き起こします[5]。この炎症反応が脳神経系に悪影響を与え、長期的な認知機能の低下や、認知症の発症に関与する可能性が指摘されています。

帯状疱疹はどのように起こるのか

帯状疱疹は、ヘルペスウイルス科の一種である「水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus: VZV)」の再活性化によって発症します。VZVは、小児期に水痘(水ぼうそう)として感染し、その症状が消えた後も体内に潜伏し続けます。

加齢などによって免疫機能、とくにVZVに対する細胞性免疫が低下すると、ウイルスが再び活動を始め、神経に沿って皮膚へも広がり、帯状の発疹や痛みを引き起こします[6][7]。

帯状疱疹では皮膚の発疹とともに強い痛みを伴うことが多く、皮膚症状が改善した後も痛みが長期間続くことがあります。このような状態は帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia: PHN)と呼ばれます。

帯状疱疹はどれくらい多い病気?

先進国では成人の95%以上がVZVに感染した経験があります[7]。多くの場合にこのウィルスは体の神経節内に残存し潜伏してしまうため、多くの人が生涯のどこかで帯状疱疹を発症する可能性があります。

一部の研究では、約3人に1人が生涯で帯状疱疹を経験すると推定されています[9]。また、ワクチン接種をしない場合、85歳までに約半数が帯状疱疹を発症してしまいます[7]。

また、一般的には帯状疱疹患者の10〜20%程度にPHN(痛み)が生じてしまい、高齢者ではこの割合がさらに高くなります[8]。

睡眠への影響

帯状疱疹では痛みによって睡眠の質の低下や睡眠障害、あるいは不安や抑うつといった症状が生じてしまいます。とくにPHNを伴う場合には、この影響がより強く、長く続く可能性があります[10]。

慢性的な痛みと睡眠障害は互いに関連します。痛みによって眠りにくくなるだけでなく、睡眠がうまくとれなくなることで、痛みに対する感受性も高まってしまいます。たとえば睡眠の質が悪化していると、脳から脊髄へ向かう「痛みを抑える神経の働き」(下降性疼痛抑制系)の機能が低下します[11]。

さらに、睡眠障害のある人では帯状疱疹の発症率が高いとする報告もあります[12]。

帯状疱疹ワクチンという選択肢

帯状疱疹ワクチンには、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛の予防効果がありますが、さらに近年では、認知症リスクを下げる可能性も報告されています[2][3]。

帯状疱疹を発症するリスクは加齢とともに増加し、さらに、発症後に強い痛みや生活の質の低下を長期間引き起こすことがあります。単なる「発疹の予防」だけでなく、健康寿命の延伸や脳神経の健康を考える上でも、帯状疱疹ワクチンの接種を検討する意義は大きいと考えられます。

参考文献

[1] Chen VC-H, et al. Herpes zoster and dementia: nationwide cohort study. J Clin Psychiatry. 2018;79:16m11312. PMID:29244265

[2] Taquet M, et al. The recombinant shingles vaccine is associated with lower risk of dementia. Nat Med. 2024. 30(10):2777–2781. PMID:39053634 ;  PMCID:PMC11485228

[3] Eyting M, et al. A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination and dementia. Nature. 2025;641(8062):438–446. PMID:40175543 ; PMCID:PMC12058522

[4] Heneka MT, et al. Neuroinflammation in Alzheimer’s Disease. Lancet Neurol. 2015. 14(4):388–405. PMID:25792098 ; PMCID: PMC5909703

[5] Nagel MA, et al. Neurological complications of VZV reactivation. Curr Opin Neurol. 2014;27(3):356–360. PMID:24792344 ; PMCID:PMC4189810

[6] Adriaansen EJM, et al. Herpes zoster and post herpetic neuralgia. Pain Pract. 2024;25(1):e13423. PMID:39364882 ; PMCID:PMC11683194

[7] Sorrentino M, et al. Logistic and organizational barriers to herpes zoster vaccination in europe: A systematic review. Vaccine X. 2024. 20:100544. PMID: 39206078 ; PMCID: PMC11350440

[8] Kawai K, et al. Systematic review of incidence and complications of herpes zoster. BMJ Open. 2014.4(6):e004833. PMID:24916088 ; PMCID:PMC4067812

[9] Lee C, et al. Lifetime risk of herpes zoster in the population of Beijing, China. Public Health Pract (Oxf). 2023. 5:100356. PMID:36968763 ;  PMCID:PMC10031117.

[10] Drolet M, et al. The impact of herpes zoster and postherpetic neuralgia on health-related quality of life : a prospective study. CMAJ. 2010.182(16):1731–1736. PMID:20921251 ; PMCID:PMC2972323

[11] Finan PH, et al. The association of sleep and pain: An update and a path forward. J Pain. 2013;14(12):1539–1552. PMID:24290442 ; PMCID:PMC4046588

[12] Chung WS, et al. Incidence and risk of herpes zoster in patients with sleep disorders. Medicine (Baltimore). 2016.95(11):e2195. PMID:26986095 ;  PMCID:PMC4839876